Day.22 燃え尽きる前には。

  • 2018.05.13 Sunday
  • 20:34


7/14 小雨のち晴れ 156km
ピスモビーチ〜サンタバーバラ




ついに幻聴が聞こえるようになった。
テントの中で寝ていると、リュウ、リュウ!と呼ばれるはずのない自分の名前が聞こえてくる。
おかしい。。。なんでこのアメリカの端っこでオレの名前知ってるヤツがいるんだ?しかも気安く下の名前で呼んでくるじゃないか。おかしい。。
怖いから一旦無視して寝るのだが、しばらくするとまた名前を呼んでくる。リュウ、リュウ!確実に僕の名前だ。いったい何なんだ。警戒心を剥き出しにテントの中で身構える。そーっとテントのジッパーを開けて外の様子を伺うと、目の前で身長2mの大男が歯を磨いている。その横では別の大男が朝日を浴びながらコーヒーを飲んでいる。



自分の目を疑った。
信じられないことに、声の主は2日前に別れたはずのクリス&チェイニーだった。
まさかこの広いアメリカで、一度離れた人間とまた巡り合ってしまうとは。。






昨日の夜、僕よりも先にキャンプ場に入った自転車二人組とはクリス&チェイニーのこと。
暗かったから自転車が二人のものだとは気が付かず、そのまま寝てしまったのだ。逆に二人からしてみると、朝起きた時に僕のテントが何も言わずにポツンと張ってあるのを見てめちゃくちゃ驚いたらしい。昨日の晩、僕たちは同じようにキャンプ場を転々と探し回り、同じように自転車で泊まれる唯一のキャンプ場に行き着いたという運命。自転車乗りにとって選択肢は一つしかなかったのだ。
だけど、僕たちが再会するまでの2日間は、それぞれ全く違うものになっていた。
ビックサーはどうやって超えたのか?という話になり、僕は列車で乗り越えたことを伝えると、二人はとんでもない距離を迂回してやっとピスモビーチに到達したと嘆いていた。ヒッチハイクを試みたものの、この大男二人を拾ってくれるような優しいドライバーは見つからず、内陸側の地獄のような砂漠地帯を走ってきたのだと。休息日&鉄道でサボりまくった僕と、2日間死ぬほど走った二人が同じ場所にいるというのも、なんだか面白かった。


二人はアメリカ海軍に所属していて、今日は近くにある海軍基地に宿泊するらしい。また一緒に走れたらと思ったのだけど、もちろん僕が基地に入ることはできず、残念ながらここでまたお別れ。それでも寂しさを感じないのはまた何処かで再会するような気がするからなのか。お互いに目指す場所はサンディエゴ。またこんな奇跡が起こらないとも限らない。









ピスモビーチにあるクラムチャウダーで有名なお店。
ミシェルさんがメールで教えてくれた。








しばらく走ったところで自転車二人組が休憩していた。
声をかけてみると、女の子二人組だった。イギリスから来たというホーリーとルーシーは、2ヶ月かけてバンクーバーからメキシコまで。偶然にも全く同じルート。やっぱり西海岸を走る人はメキシコ=サンディエゴを目指すことが多いように思う。やっぱり2ヶ月くらいが妥当な期間なのか。
旅の中で自転車乗りに出会うと、お互いの自己紹介として名前、出身国、目的地、走行距離などを伝え合うのだが、この辺りで出会う自転車乗りは、そこに”どうやってビックサーを超えたのか?”が加わる。みんなにとってそれが一番の関心事だから。ちなみに、ホーリーとルーシーの女の子二人はヒッチハイクをして無事に優しいドライバーに拾ってもらえたらしい。”やっぱりな”と、僕の頭にはちょっと暑苦しいクリスとチェイニーの顔が浮かんだ。








そのままの流れで一緒に走り、美味しいピザ屋を知ってるからと誘われるままランチへ。
オシャレなお店でピザを食べながら、あらためてたくさんの話をした。
二人は普段イギリスのエディンバラでお医者さんをしている同僚らしい。お医者さんだったことにももちろん驚いたけど、なによりも、エディンバラ。僕はストリートパフォーマーで2年前にエディンバラのフリンジに出たよ!と言うと(正確にはエディンバラでパフォーマンスしていないのだが)二人はスゴく驚いていた。お互い旅のルートも同じということで共通の話題も多く、英語の不足を補って話が弾んだ。
ホーリーは自転車ツーリング用の地図を持っていて、それによると40kmほど南に行けば自転車でも泊まれるキャンプ場があるらしい。相手が女の子だったから”そこまで一緒について行っていいんだろうか”と自分なりに気を使ったつもりだったのだけど、二人共お構いなしの様子で、あっさりと皆でキャンプ場に泊まろうという話になった。もちろん僕は嬉しかった。ここ数日苦労していた”寝る場所見つからない問題”が解決したこともそうだし、なによりも女の子たちとキャンプするのだ。そんなの楽しいに決まってる。








全て順調だったのだけど、会計を済ませ店を出たところで、急に気持ちが変わった。
”少しコーヒー飲んでから向かうから、先にキャンプ場に行ってて”と二人に伝え、僕は別行動をとることにした。もちろんコーヒーが飲みたかったわけではなく、このまま二人に甘えてしまうのもなんだかなぁと思って、少し一人になりたくなったから。


旅の中で出会った自転車乗りと一緒に走って自動的にキャンプ場に到着。というパターンはもう何回か経験していて、それがラクなことはよく分かっている。風除けになってもらい、ルートを案内してもらい、宿泊地が確保され、なんだったらご飯まで奢ってもらえる。日本人は若く見られるから僕でも可愛がられることが多いし、自転車旅の困ったやつを演じていれば、いくらでも親切にしてもらえる。
しかしながら僕はもう31なのだ。自分一人でキャンプ場だって見つけられるし、決して貧乏なわけでもない。人の親切心に対してどこかで線引きをしなければ、このままダラダラと甘え続けてしまう。ホーリーとルーシーの親切はもちろん有難かったけれど、少しの間”自分で”動きたくなった。
キャンプ場で再会すると約束して二人には先に行ってもらった。僕はマクドナルドに寄って、特に飲みたかったわけでもないコーヒーを飲んだ。素直に一緒に走ればよかったのに、なかなか面倒臭い性格だなぁと自分でも思った。だけど、きっとホーリー達も分かってくれるだろう。キャンプ場の場所も教えてもらってるし、迷子になるようなルートでもない。ほんの2,3時間だけ別行動して、あとは女の子たちと一緒にキャンプを楽しむつもりだった。その時は。





思ってたよりもアップダウンがキツい道。







夕焼けが赤くてキレイだ。


自分から別れたくせに、それはそれで寂しくて、ホーリーとルーシーに追いつけないかとペースを上げた。
途中からは自転車OKの高速道路で、走っていたパトカーのポリスが応援してくれた。捕まるんじゃないかとビクビクしていたから、拍子抜けした。


ギリギリ暗くなる前にキャンプ場に到着。
思った以上に走行距離が伸びてしまったが、なんとか今日も走りきることができた。
あとはホーリー達を探してキャンプを楽しもうかな。と、浮わついた気持ちでいたところに、とんでもない災難が起こってしまった。



チェックインしに行くと、受付けのファンキーな髪型をしてるお姉さんが"あなたは南へ行くの?北へ行くの?"と聞いてきた。何故そんなこと聞いてくるんだろうかと疑問に思いながら"南へ"と答えると、じゃあ今日はここに泊まらない方がいい。明日の朝から道路が封鎖されるから、と言ってきた。
いやいや、そんなはずはない。。どーして?


ファイヤー。

あぁ。花火大会?

ノー、ファイヤー!
ファンキー姉さんが指差した方向には、さっき見た真っ赤な夕焼け。。

いや、よく見ると夕焼けじゃない。。あれ、火事で空が赤くなってる。
驚いたなんてもんじゃない。空が赤くなるほどの規模で山がメラメラと燃えている。


明日の朝にはもっと燃え広がるから道路は封鎖よ。

えぇ!?いつまで?

それは分からないのよ。


ファンキー姉さんの真剣な表情が事態の深刻さを物語っている。
なんてこった。。。すっかりゴール気分でいたところに、突然の山火事。
いま僕はとても重要な選択を迫られてるっぽい。


一旦落ち着いて考えよう。
話によれば、今夜中に山火事を通り抜けなければ唯一の道路が塞がれてしまう。普通に考えて、一度封鎖されてしまった道路はしばらく元に戻らないだろう。もしかしたら数週間、数ヶ月の規模で封鎖されるかもしれない。そうなったらどうすればいい?クルマが通れないんじゃヒッチハイクもできない。列車に乗るという手段もあるけど、道路がダメなのだから列車だって走らなくなるかもしれない。
それよりも言われた通りに今夜中に自転車で走り抜けてしまった方がいいのだろうか?かといって、あの山火事のすぐ横をすり抜けるなんて正気の沙汰とは思えない。これから暗くなる時間。しかも高速道路。条件は最悪だ。どれだけ進めばいい?どれだけ燃えてるのか?ファンキー姉さんもあまり把握できてないらしく返事が曖昧だし。これはもう旅そのものを強制終了しなきゃいけないレベルの災害じゃないのか?
さすがに判断に困る。。


あっ、そーいえば、イギリスから女の子二人来てなかった?

来てたけど、彼女たちは30〜40分前にここを出ていったわよ。


そーなのか。。。
ホーリーとルーシーは進むことにしたのか。二人が進むべきだと判断したのだったら、それが正しいのかもしれない。自分の判断よりもよっぽど信頼できる。
たしかに、ここで山火事の終息を待っていたら僕の旅は確実に終わる。二人だって、それを分かってるからこそ危険を承知で山火事を走り抜けることにしたんだろう。
バンクーバーからここまで走ってきたんだ。たくさん支えてもらった。メキシコに到達できるかどうかは、もう僕だけの挑戦じゃないんだ。やっぱり走り続けたい。
終わりがチラついた途端、僕の気持ちはメキシコに執着した。
二人を信じるしかない。山火事の横をすり抜けよう。


ファン姉さんが言うには、60km先のゴリータという町まで行けば安全で、そこにある小学校の体育館が避難所的なウンヌンカンヌンなんだそうな。気持ちばかりが焦って説明が全然頭に入らない。それよりも、30〜40分だったら二人に追いつけるかもしれないし急いで出発した方がいい。
サッとお礼を伝え、すぐに飛び出した。





進むと決めた以上、60km先のゴリータまで走りきらなきゃいけない。そして、できることなら前を走っているホーリーとルーシーに追いつきたい。
丸一日走ってきた脚はもう限界に近いけれど、高速道路を飛ばした。クルマ通りの少ない高速道路は、道幅が広くて意外と走りやすかった。やらないと決めていた夜間走行も全然問題なかった。元々治安を考えて夜の走行を控えてただけで、今はもはや治安を気にしてる状況じゃない。何よりも怖いのは自然だ。辺りが暗くなったことで余計にハッキリと炎が見えて、何十キロにもわたって山がメラメラ燃えてるのがよく分かった。高速の出入口は全て封鎖されていて、住民は避難した後なのか、全然人が見当たらない。大きな災害が目前に迫ってるというリアリティがビシビシと伝わってくる。
風向きがこっちになったのか、モクモクと周りが煙たくなって、だんだん目が痛くなってきた。身体に悪そうな空気を吸いながら走っていると、そのうち煙が灰に変わり、パサパサと身体に当たってくる。たまに口に入るのが鬱陶しかった。





何時間走っただろうか。。とても長く感じた。
ホーリーとルーシーに追いつくことは諦めた。もう脚がスカスカで限界をとっくに超えている。ペダルを踏んでいる感覚がなくなった。一度どこかで休みたいのに、全部の出入口が封鎖されていて高速道路を降りられない。休憩できそうな場所が見当たらず、仕方なく道路の路肩に腰を下ろした。すぐ近くをクルマが猛スピードで飛ばす。汗が冷えて寒い。相変わらず辺りは煙たくてノドも痛い。もうなんでもいいから安全な場所で眠りたい。眠らせてくれ。





身体も気持ちも完全に燃え尽きた状態でなんとかゴリータに到着。悪夢のような高速道路の出口がようやく開き、スーッと惰性で下道に降りる。
疲労と安堵感で狂ったように爆笑した。必死になって走ってる時は何とも思わなかったのだけど、ゴリータに着いた途端、フリフリを着ているゴリラの絵が頭に浮かんで離れない。ついにゴリータに着いたのだ。
しかし笑ってる場合ではなく、ここから泊まる場所を探さないといけない。
ファンキー姉さんの言っていた避難所的な小学校は見つけられず、ホテルもキャンプ場も全然見当たらない。フリフリゴリラは小さな街だった。
もう極限まで眠たいので、野宿をする覚悟はすんなりと決まった。ただ気持ちとは裏腹に野宿をする場所がなかなか見つからない。治安が悪そうな場所はもちろんイヤだし、逆に治安が良さそうな場所も野宿できる雰囲気じゃなかった。たしかに、治安が良いからこそ野宿が許されないというのは盲点だった。
アテもなくゾンビのようにウロウロしていると道路沿いに教会が見えた。”教会の裏庭が野宿に適している”というのをネットか何かで読んだことがあるのを思い出し、裏に行ってみるとちょうど良さそうな芝生のスペースが見つかった。”教会関係者だったら親切に野宿を迎え入れてくれるよ”という話だったと思うのだけど、もう既に深夜。挨拶するわけにもいかず、申し訳ないと思いつつ勝手にテントを張らせてもらった。朝になったら誰かに怒られるかもしれない。だけどもうそんなことを考える余裕もない。僕は無宗教だけど、神様もこの1日の経緯を見ててくれたら少しのワガママを許してくれるだろう。






情けない夜だなぁと思った。
甘えたくないと言って1人になったのに、自分だけではまともに寝る場所さえ見つけられず。
ただ生き抜くだけで精一杯。







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