Day.18 ステッカーから始まる再会。

  • 2017.09.30 Saturday
  • 23:45



7/10 晴れ クルマ20km 自転車154km
ボデガベイ〜ハーフムーンベイ



レジェンドの朝は早い。
僕が起きた時間には、ヴィクトルさんはもう準備を済ませて出撃態勢だった。
"ゆっくり行くから後でまた会えるかもね!"と口約束をしてお別れ。それから1時間後くらいに僕も出発したから、ゆっくりなレジェンドのペースを考えると2~3時間くらいで追いつくだろうか。
また会いたいなぁ。





キャンプ場の無人精算機に5ドル入れてから出発。



いよいよ今日はサンフランシスコ。
ここ数日でいくらか距離を稼げたこともあって気持ちに余裕が出てきた。
なんだか身体も調子が良い。




走り始めて少し経った頃に、ケータイに知らない人から連絡が入ってきた。
英文メッセージだったし何かの勧誘メールかな?なんて思ったのだけど、よく確認してみたら、昨日20ドルを渡してくれたマダムからのメッセージだった。
実は昨日お金をもらった時に、ささやかなお礼として大道芸用のステッカーを渡していて、そこに書いてある名前をfacebookで検索して連絡をくれたみたいだった。そんな薄い情報を辿ってわざわざ連絡をもらえるなんて思ってなかったからスゴく驚いたし、嬉しかった。
昨日お金をもらった時は立ち話程度で終わってて、お互いの名前さえ知らないような間柄だったのに、何の気なしに渡したステッカーのおかげで消えたはずの繋がりが戻ってきた。渡せる物がそれくらいしか無かっただけなんだけど、お礼しておいてよかった。
ちょっとしたきっかけで人って繋がりって変わっていくものなんだなぁって、しみじみ思う。








昨日の写真。
僕と一緒に写ってる人がミシェルさんで、写ってないけど撮影してくれてたのがリサさん。

二人は旅行で西海岸に来ていて、今日はサンフランシスコの少し先に泊まっているから、もし今日中に着きそうだったらディナーをご馳走しますよ、と。僕にとっては願ってもない話だった。
二人が滞在してるハーフムーンベイという場所はここから160kmほどの距離。
ちょうど100マイル。正直かなり遠いけれど、頑張れば走れない距離でもない。本当は今日はサンフランシスコの街を自転車で走り回って満喫するつもりだったのだけど、そんなありきたりな観光地巡りよりも、二人の誘いにのってディナーをご馳走してもらう方が100倍面白そうだ。こんなに嬉しい連絡をもらったのだから、行くしかない。

そんな流れで、今日の目的地はハーフムーンベイに決まった。





それにしても、なかなかヴィクトルさんが見つからない。
まだ先を走ってるのか、それとも気付かないうちにどこかで追い抜いてしまったのか。いや、途中で見過ごすほど難しい道でもなかったし、あのおじいさんがそんなに速いわけもないし、もう3〜4時間ほど走ってるのに一向に姿が見えない。何かおかしい。もしかしたらヴィクトルさん迷子になってるんじゃないか?大丈夫だろうか?と心配になって地図を確認してみたら、なんと道を間違えていたのは僕だった!


あぁ〜。。。やってしまった。
いつの間にかヴィクトルさんの言ってた道とは別の内陸側のルートに来てしまったみたいだ。
こんな大事な場面で道を間違えるなんて。しかも間違えたことに気づかないまま何時間も走り続け、その上ヴィクトルさんを迷子扱いするなんて。僕はとんでもない大バカ野郎だ。
もうかなり時間が経ってしまっているから今から引き返したところでヴィクトルさんとは会えない。せめて連絡先だけでも聞いておけばよかったのに、どうせまたすぐに会えるだろうと思って先延ばしにしてしまっていた。なんてこった。。キャンプ場でサラッとお別れしてしまったことが悔やまれる。”また会えるかもね”と軽い口約束だったけれど、絶対また会えるだろうなって、たぶんお互いにそう思っていたんだ。こんなにアホなケアレスミスでせっかく出会えた大切な友人と別れるなんて。。
なんとも申し訳ない気持ちにもなったけど、もはや僕には謝る手段さえ残ってない。






道を間違えたとはいえサンフランシスコ方面には向かっているので、そのままの道を走る。
ちょっとしたきっかけからマダムと再会する約束をして、ちょっとした失敗でヴィクトルさんとは別れてしまった。100マイル走らなきゃいけないのに、道を間違えた。たくさんの出来事が同時に重なり過ぎて、なんとも複雑な気持ちになった。それでも渋々ペダルを回す。気持ちの整理がつかないまま。こんな時でさえ走り続けなきゃいけない自分の自転車旅を、ちょっとだけイヤだなぁって思ってしまった。
このまま南東に20kmほど進むと、僕がずーっと走ってた馴染みのある101号線にぶつかって、あとは101号線を南に向かって走ればいい。そしたら、いよいよサンフランシスコ。
ここ数日間ずっと”サンフランシスコまで〇〇mile”の看板を目安にして、表示される残り距離が減っていくことを励みに歯を食いしばってきた。旅の区切りとしてずっと目標にしていた場所なので、少し嬉しい気持ちもあったけど、やっぱりちょっとホロ苦い。本当はヴィクトルさんと一緒にサンフランシスコに入るつもりだったから。
そろそろレジェンドはアメリカ大陸の横断を達成している頃だろうか。一緒にいられなかったことは本当に残念で仕方ないけれど、少し離れた場所からこのとんでもない偉業をお祝いしています。
あのゆっくりなペースでニューヨークから延々走り続けて西海岸のサンフランシスコまで。3ヶ月かけて。65歳になって。牛と戯れながら。なんかもう全てが飛び抜けてて、めちゃくちゃカッコよかった。本気でカッコイイことって大概人に見えないところで動いてるから、自分から探しに行かないと見つからない。脚色されたドラマばかりが溢れるこの世の中で、ホンモノの生き様を見せてもらったような気がした。






予定通り101号線に到達するも、なんだか様子がおかしい。
僕の知っている101号線はもっとのどかでクルマ通りの少ない田舎道だったハズなのに、久しぶりに出会った101号線は凶暴な高速道路に変貌していた。大好きだった道が知らぬ間にそんなことになってたなんて、全然気が付かなかった。同じ名前の道路が途中から高速道路に変わってるなんて、日本の感覚からすると有りえないもんなぁ。
インターステート(高速道路)にも自転車で走れるタイプと走れないタイプの2種類あるのだけど、ここはもう完全に走れないタイプ。自転車禁止の標識も立っているし、交通量が凄まじくてとてもじゃないけど自転車で入れるような空気じゃない。旅の初日にインターステートに侵入して大変な思いをした苦い記憶もあるし、ここはムリせず迂回しよう。こういった類のトラブルはもう何度か経験してるので、旅を続けていく中でだんだんと慣れてきてしまった。多少の困難を受け入れられるように心のキャパシティが広がってきたというか、まぁ、諦め慣れしてきたってことなんだと思う。ちょっと迂回すればいいだけの話だし、そんなに騒ぐような問題じゃない。


と、地図を確認してみたら、なんと迂回路は80kmの遠回り。


考えが甘かった。。
80kmなんて、1日のほとんどが迂回で終わっちゃうじゃないか。
ここ数日間ちょっとでも距離を稼ごうと身を粉にして走ってきたというのに、ロスが大き過ぎる。しかも地図が示してる迂回路は、僕が間違えた道を一度完全に戻ってからレジェンドの言ってた方向に進むというルート。
それはさすがに。。。
迂回するにしても”ふりだしに戻る”というのは自分の間違いを認めるみたいで受け入れたくない(キャパ狭い)。なにより、そんなことをしていたらミシェルさん達とのディナーに間に合わなくなってしまう。今日中にハーフムーンベイまで行きたいんだ。


困ったことになった。
インターステートを突破するなんて不可能だし、丸一日をムダにして"ふりだし"に戻るのも絶対にイヤだ。目の前には洪水のようにクルマが流れるインターステート。ほんの少し、たった15kmだけでもこの高速道路に乗ることができれば、また別の一般道に繋がるのに。
どーすればいいのか。。


完全に頭がパンクしてるのが自分でも分かった。朝から色々なことが起こり過ぎて、いい加減疲れた。もう何も考えたくない。動きたくない。しばらく道路脇にしゃがみこんで泣いた。
悲しいもなく、嬉しいもなく、疲れてるという理由で泣いたのは初めてだった。





残された解決策はひとつだけ。
自転車ごとクルマに載せて運んでもらうしかない。
ヒッチハイクをするのだ。


なんて。簡単に言ったけれど、僕にはヒッチハイクの経験など全くない。
こればっかりは、やりたくなくて正直ずっと避けていた。
なるべくなら自転車で走り続けたいという変なプライドもあったし、人の親切を自分から求めるような行為に抵抗があったし、それらしい理由を挙げればキリがないけど、結局のところは怖かったから。経験のないものが怖いということに尽きる。自らお願いしてどこの誰かも分からない人のクルマに乗り込むのだ。そりゃぁ怖いに決まってる。
だけど、もう今はそんなことを言ってられる状況じゃない。大切なディナーの約束があるんだ。
ヒッチハイクして止まってくれるクルマなんて本当にいるんだろうか?そんなの分からない。だけど、経験が無いのだから分からなくて当然だ。経験が無いことを理由にしていたらこの先ひとつも前に進めない。ヒッチハイクする勇気がなくて丸一日迂回しましたなんて(しかも間違えた道)それこそ、そんなヤツは日本に帰ってしまえ。やるだけやってみてダメだったらそのとき80km迂回すればいい。いまは泣いてる場合じゃない。失うものなんて無いんだ。
強引に自分を奮い立たせた。そーでもしなければ、この先には進めない。
意を決して立ち上がり、クルマを止めるために手を上げた。



その瞬間だった。
キキーっと目の前でクルマが止まり、窓が開く。
“need help?”
信じられないことに僕の初ヒッチハイクは2秒で成功した。


なんという奇跡。あまりの出来事に、手を上げたまま固まった。
止まったクルマは幸運にも自転車を載せられそうなバンタイプで、後部座席に4,5歳くらいの女の子ふたりが乗っていて、優しそうなお父さんが運転している。怪しい人じゃないのは一目で分かった。
高速道路を自転車で通行できないから少しの距離を乗せていってほしいとお願いすると、快く引き受けてくれた。グラハムさんと名乗るお父さんはとても優しく、僕は親切心に甘えてしまった。
自転車を載せようとしてクルマのバックドアを開けてみたら、なんとそこには本格的なTTバイクが置かれていた。グラハムさんはトライアスロンの選手だったのだ。なんという幸運。お互い自転車乗りということで話が弾み、あっという間にインターステートを通過。15分ほどのドライブを楽しんだ。
いままでの不安がウソのように吹き飛んで、一気に視界が広がった。


サンフランシスコの手前まで運んでもらい、お礼を伝えてお別れ。女の子ふたりも手を振ってくれた。
本当に、奇跡のような出会いに助けられた。この旅の中で親切を受け取ることはたくさんあったけれど、自分から親切を求めるようなことは今日までしてこなかった。この二つは似ているようで全然違う。いつも受け身の姿勢だった僕にとって大きなハードルをひとつ越えたような気がした。




グラハムさんがたまにトレーニングで走るという自転車用のルートを教えてもらったから、もう道に迷うことはない。そこから先はもう本当に脇目も振らずにひたすら走った。
かの有名なゴールデンゲートブリッジは僕にとって観光するための場所ではなく、通り抜けるための道でしかなかった。サンフランシスコの街も止まることなく真っ直ぐに走った。とにかく急いだ。タダ飯を食べるために走ってると言ってしまえばまぁその通りなのだけど、ディナーを奢ってもらう身として、常識的なディナータイムまでに到着しなきゃいけないと思ったから。
あれだけ心待ちにしていたサンフランシスコの街はもうどーでもよくなっていた。










日が暮れそうなギリギリの時間に待ち合わせ場所のレストランに到着。やっと着いた。本当に100マイル先まで来てしまったのか。
ミシェルさんとリサさんはお店の前で待ってくれていた。ふたりの顔を見てホッとして、一気に身体のチカラが抜けた。つい昨日会ったばかりのハズなのに、なんだか遠い昔の記憶のように感じてしまう。それくらい、たくさんの出来事が詰め込まれた1日半。移動距離だけでは計れないような内容の濃い道のりだった。
ホッとしたのはふたりも同じだったみたいで"久々"の再会をみんなで喜んだ。僕のことをスゴく心配して待ってくれていたらしい。メッセージの文面だとそーゆーのはあまり伝わってこないから(英文だったし)もうちょっとライトな食事会だと思っていたのだけど、熱烈に歓迎してくれて、なんだか高級そうなレストランに連れてかれてしまった。
いざご馳走してもらえるとなると恐縮してしまって何を頼んだらいいのか分からず、ミシェルさんに薦められるままにクラムチャウダーをいただいた。久々の温かい食べ物が身体に沁みてとても美味しい。よく考えてみるとここ数日間まともな食事を摂っていなかった。
クラムチャウダーが大好きな食べ物になった。








今日はどこに泊まるの?と聞かれてドキっとした。そんなの全然決まってなかったから。ハーフムーンベイに到達することに精一杯で、泊まる場所を考える余裕なんて全然なかった。
どーしよう。。何のアテもない。だけど、また気を使わせてしまうのも申し訳ないなぁと思い”その辺のビーチで野宿するよ。いつもそんな感じだから大丈夫”と言って強がった。実際もう野宿でも仕方ないと思っていたし、心配をかけないためにそう言ったつもりだったのに、下手なことを言ったせいで逆に心配をかけてしまったみたいだった。寒いし危ないから止めるようにと説得されてしまい、ミシェルさんとリサさんが泊まっているair bnbの家にムリヤリ僕のことを追加してくれた。(もちろん追加分の料金のかかることなのだが、ふたりはそれも支払ってくれた)さすがにそこまでお世話になるわけにはいかないと遠慮したのだが、温かいシャワーを浴びた方がいいと説得されて、最終的にはふたりの優しさに僕が折れた。

クラムチャウダーを食べながら、涙が止まらなくなった。
泊まる場所が見つかった安堵感と、ふたりの優しさと、申し訳ない気持ちと。
何度も思ってきたことだけど、僕は僕の勝手で旅に出ているだけで、日本に帰れば当たり前の生活が待っているし、別にお金に困っているわけでもなく、好き好んで困難に飛び込んでいるだけなんだ。親切にされすぎると、それはそれで心苦しくて、感情のやり場に困る。
ただただ涙が止まらない。




air bnbの部屋。

相変わらず、受け取る親切の大きさに戸惑ってばかりだ。




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